相続した実家を売却する際の税金と節税に役立つ特例制度を解説
実家を相続したものの住む人がいない場合や、親の遺産の相続税の資金を捻出したいという場合には、相続した実家の売却を検討することになるでしょう。
しかし、相続した実家はただ売却して資金が得られるというわけではありません。
売却するには税金が発生するため、節税方法を知っておくことも大切なポイントです。
そこで今回は、相続した実家の売却で発生する税金、節税に役立つ特例制度、相続した実家を売却する際の注意点などについて解説します。
実家を相続した時点で発生する税金
両親が他界して実家を相続することになった場合、まず家を相続した時点で税金が発生します。
税金が発生することを知らずに相続してしまうと、あとから税金の支払いで困ってしまう恐れがあります。
あらかじめ相続によってどれくらいの税金が発生するのか把握しておきましょう。
1.登録免許税
実家を相続することになった場合、被相続人(亡くなった方)の名義のままで売却することはできません。
そのため、まずは相続登記を行う必要があります。
相続登記とは相続することになった不動産の名義を被相続人から相続人へ変更する手続きで、「登録免許税」という税金が発生します。
登録免許税は以下の計算式で算出することができます。
登録免許税 = 固定資産税評価額×0.4%
固定資産税評価額は、市区町村から毎年送付される「固定資産税納税通知書」に記載されています。
固定資産税納税通知書を紛失してしまった場合は、市区町村で申請すれば、固定資産税の金額が記載された固定資産公課証明書を交付してもらうことが可能です。
相続登記は、不動産の所在地を管轄する法務局で行う必要があります。
手続きの際には、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本など複数の書類が必要です。
2.相続税
実家を相続すれば、「相続税」が発生します。
相続税の申告は相続した日の翌月から10か月以内に行う必要があり、申告期限までに納税を行います。
ただし、相続税は実家を相続した全ての人に発生するわけではありません。
相続した財産の総額から債務や葬儀費用を差し引いた金額が相続財産になり、「相続財産−基礎控除額」が相続課税の対象になります。
基礎控除額とは相続税において控除される枠で、以下の計算式で算出します。
基礎控除額 = 3000万円+(600万円×相続人数)
相続財産から基礎控除を差し引いた額がゼロ以下になれば、相続税は発生しません。
一方で、基礎控除を差し引いた後の相続財産がプラスの場合には、相続税が発生します。
相続税は課税対象額によって発生する税金が異なり、以下の表を参考に算出することができます。
相続の課税対象額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1000万円以下 | 10% | なし |
3000万円以下 | 15% | 50万円 |
5000万円以下 | 20% | 20万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1700万円 |
3億円以下 | 45% | 2700万円 |
6億円以下 | 50% | 4200万円 |
6億円超 | 55% | 7200万円 |
相続した実家を売却した時に発生する税金
実家を相続すれば、相続した時点で、登録免許税や相続税が発生します。
そして、その相続した実家を売却する際には、通常の不動産売却と同様に印紙税、譲渡取得税、住民税が発生することになります。
ここからは、相続した実家を売却した時に発生する税金について説明します。
1.印紙税
印紙税は、不動産売買契約書を作成する際に発生する税金で、売却された物の価格に応じて決められます。郵便局などで収入印紙を購入し、契約書に印紙を貼ることにより納付します。
印紙税の税額は以下の通りです。
契約書へ記載された金額 | 税額 | 軽減された税額 |
---|---|---|
100万円~500万円 | 2,000円 | 1,000円 |
500万円~1000万円 | 1万円 | 5,000円 |
1000万円~5000万円 | 2万円 | 1万円 |
5000万円~1億円 | 6万円 | 3万円 |
1億円~5億円 | 10万円 | 6万円 |
5億円~10億円 | 20万円 | 16万円 |
10億円~50億円 | 40万円 | 32万円 |
50億円~ | 60万円 | 48万円 |
上記の表の「税額」という部分が本来発生する印紙税の金額です。
ただし、不動産の譲渡に関する契約書で記載金額が10万円を超えるもので、平成26年4月1日から令和6年3月31日までの間に作成されるものは、期間限定で定められている軽減措置の対象になります。その期間中の場合は、上記の表の「軽減された税額」が適用されます。
2.譲渡取得税、住民税
相続した実家を売却し、売却益が出た際には、譲渡所得税と住民税が発生します。
ただし、売却して利益が出ない場合には譲渡所得税が発生しません。
譲渡所得税は、以下の計算式で算出できます。
譲渡所得税 =〔譲渡価格−(取得費+譲渡費用)〕×税率
取得費とは、実家の購入金額のことです。
取得費は購入した際の契約書に記載されていますが、長く受け継がれた家の場合は取得費がわからないこともあります。このような場合には、売買額の5%を取得費として計算します。
譲渡所得税の税率は、実家を所有していた期間によって異なります。
短期譲渡所得(5年以下) | 長期譲渡所得(5年超) | |
税率 | 30% | 15% |
参照元:国税庁「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」
確定申告では、譲渡所得税のみを申告することになり、住民税を別途申告する必要はありません。
相続した実家を売却する際に発生する税金の節税方法
相続した実家を売却する際には、多くの税金が発生します。
しかし、相続した不動産の売却では、さまざまな控除制度を利用できる可能性があります。
税金を少しでも抑えるために、ご自身の状況に応じた制度を利用しましょう。
1.取得費加算の特例
相続した実家の売却によって生じる譲渡所得税を下げることができる「取得費加算の特例」という制度があります。
この制度では、相続時に発生した相続税の一部を取得費に加算することが認められます。
つまり、取得費加算の特例を適用した場合、譲渡所得税は以下の計算式で算出できます。
譲渡所得税 =〔譲渡価格−(取得費+譲渡費用+取得費加算額)〕×税率
取得費加算額は、以下の式で求めることができます。
取得費加算額=〔相続税額×(譲渡した土地の相続税の課税価格÷取得した相続財産の課税価格)
取得費加算の特例制度の適用条件は以下の通りです。
- 相続税が課税された人
- 相続後3年10か月以内に売却すること
- 確定申告をすること
相続から3年10か月を超えると適用されないという点には注意が必要です。
2.実家に住んでいた場合に使える特例
相続した実家に住んでいた場合と住んでいなかった場合では、利用できる特例に違いがあります。
実家に住んでいた場合に適用される特例をご紹介します。
①居住用財産の特別控除
不動産を売却して利益が出れば所得税が発生しますが、マイホームなど生活の拠点として住んでいた不動産を売却する場合には、居住用財産の特別控除が適用されます。
居住用財産の特別控除が適用された場合、譲渡所得から最大3000万円が控除されます。
居住用財産の特別控除の適用条件は以下の通りです。
- 自分が居住する家屋を売却する、または家屋とともに敷地や借地権を売却すること
- 以前住んでいた家屋や敷地の場合、居住しなくなってから3年目の12月末までに売却すること
- 家屋を取り壊した場合は、売却までに住居以外として使用していないこと
- 取り壊しの日から1年以内に譲渡契約を締結すること
- 売却する相手が親子や夫婦などの特別な関係にないこと
- 売却した年の前年・前々年にこの特例またはマイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けていないこと
- 売却した年に住宅ローン控除を受けていないこと
居住用財産の特別控除は、ご自身の生活拠点であることが条件になるため、この特例を使うことを目的として居住した場合は認められません。また、別荘なども対象外となります。
②小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、相続した実家が330㎡までの宅地だった場合、土地の評価額を減額する特例です。宅地の場合は80%まで評価額が減額されます。
また、賃貸アパートや駐車場などを相続した場合も、利用することが可能です。
小規模宅地等の特例の適用条件は以下の通りです。
- 特定居住用宅地に該当すること
- 相続開始前から相続税の申告期限まで住み続け、宅地を同じ期間所有していること
小規模宅地等の特例は、取得費加算の特例と併用できないという点には注意が必要です。
どちらを利用する方が税金を抑えられるのか十分に検討することが大切です。
③10年を超える場合の軽減税率の特例
相続した実家の所有期間が10年を超えている場合、売却した際に生じる譲渡所得にかかる税率を軽減できる特例を利用できます。
この特例が適用された場合、税額は以下の計算式で算出します。
6000万以下 | 6000万円超 | |
税額 | A×10% | (A-6,000万円)×15%+600万円 |
参考:国税庁「No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例」
長期譲渡所得の場合の税率は15%になるため、大幅に軽減されるといえるでしょう。
この特例の適用条件は以下の通りです。
- 10年以上保有していること
- 自分が居住する家屋を売却する、または家屋とともに敷地や借地権を売却すること
- 以前住んでいた家屋や敷地の場合、居住しなくなってから3年目の12月末までに売却すること
- 家屋を取り壊した場合は、売却までに住居以外として使用していないこと
- 取り壊しの日から1年以内に譲渡契約を締結すること
- 売却する相手が親子や夫婦などの特別な関係にないこと
- 売却した年の前年・前々年にこの特例またはマイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けていないこと
- 売却した年に住宅ローン控除を受けていないこと
この特例は、居住用財産の特別控除と併用することが可能です。
④平成21年、22年に取得した土地などの保有期間が5年以上の場合の特例
相続した実家が平成21年もしくは22年に取得した土地であり、所有権が5年を超えている場合には、譲渡所得から1000万円を控除できる特例を利用できます。
適用条件が狭いですが、該当すれば大幅な節税が期待できます。
この特例の適用条件は以下の通りです。
- 平成21年1月1日~平成22年12月31日までに土地を所得していること
- 所有期間が5年を超えること
- 売却する相手が親子や夫婦などの特別な関係にないこと
- 相続・贈与・交換により取得した土地ではないこと
この特例は、居住用財産の特別控除と併用することはできません。
3.実家に住んでいなかった場合に利用できる特例
相続した実家に住んでいなかった場合、取得費加算の特例に加えて、被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例の適用対象となる可能性があります。
この制度が適用されると、相続によって空き家となった不動産を売却した際に譲渡所得から最大3000万円が控除されます。
この特例の適用条件は以下の通りです。
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
- 相続開始直前まで被相続人が居住し、それ以外に居住していた者がいなかったこと
- 相続日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
- 平成28年4月1日~令和5年12月31日までに売却すること
- 売却価格が1億円以下になること
- 耐震基準を満たしていること。(満たしていない場合はリフォームするか取り壊して売却する)
など
この特例は適用基準が厳しいですが、譲渡所得が3,000万円以下の場合に適用されると、譲渡所得税をゼロにすることができます。
相続した実家を売却する際の注意点
相続した実家を売却する際には、注意すべき点がいくつかあります。
少しでも高額に実家を売却するために特に注意すべき点について説明します。
1.実家の購入額がわからなければ不利になることがある
相続した実家を売却すれば利益が出た分の譲渡所得税が発生しますが、譲渡取得税の計算では、取得費が重要なポイントとなります。取得費とは、実家を購入した時の価格です。
実家の購入金額がわからない場合には、売買額の5%が取得費として計算されてしまうため、本来購入した価格よりも低い金額になってしまう可能性があります。
取得費は高ければ高いほど譲渡所得を抑えることができるので、取得費を高く設定できるように、実家を購入した際の資料を探すことが大切です。
2.実家を売却するなら早い方がよい
相続した実家を売却する際の税金を抑えるための特例を紹介してきましたが、売却するなら相続してから3年以内が望ましいといえます。
取得費加算の特例や居住用財産の3000万円特別控除には期限が設けられていて、その期間内に売却することで大幅に税金を抑えることができるからです。
売却活動を始めてから、実際に売れるまでにはある程度の期間がかかるので、早めに売却活動を始めることをおすすめします。
3.査定は複数の会社へ依頼すべき
相続した実家を売却する場合、まずはどの程度の価格で売却できるのか不動産会社へ査定を依頼することになります。
ただし、査定額の結果は不動産会社によって異なります。複数の会社へ査定を依頼し、査定額の理由や売却方針などを聞き、どの不動産会社へ依頼すべきか検討するとよいでしょう。
まとめ
今回は、相続した実家の売却で発生する税金、節税に役立つ特例制度、相続した実家を売却する際の注意点などについて解説しました。
相続した実家を長い間空き家として放置すると、税金を抑えられる特例を利用できなくなる可能性があります。また、放置することで家が劣化すれば、リフォームや取り壊しなども必要になるため、より高額な経費も発生することになるかもしれません。
そのため、売却を決めたなら早い段階で不動産会社へ査定を依頼することが大切です。
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- |2022.12.22